奥ノ細道・オブ・ザ・デッド (スマッシュ文庫)』:森晶麿/天辰公瞭のかんそーぶん

@ 『奥ノ細道 オブ・ザ・デッド』:森晶麿/天辰公瞭(ISBN9784569676715)。 スマッシュ文庫新刊。作者さんのデビュー作。 どこからともなく現れた屍僕と呼ばれるゾンビによって占拠されつつある大江戸から その原因を辿るために旅立った松尾芭蕉とその弟子・曾良の屍臭に充ち満ちた奥の細道地獄旅。

時は元禄、五代将軍綱吉の治世。 江戸の街は『屍僕』と呼ばれる歩く死体によって占拠されつつあった。 屍僕に噛みつかれたものはまた屍僕となり、 瞬く間に増えていく死霊たちの前に生者たちは次第に追い詰められていく。 事態の原因究明と打開のため、幕府側用人・柳沢吉保は自らを「がらくた」と 称する美しき俳諧人・松尾芭蕉を最初に屍僕が現れたと思しき伊達藩へと向かわせる。 芭蕉が旅の道連れとして選んだのは 屍僕となった姉を殺害し、心が砕けた少年であった。 芭蕉により「曾良」という新たな名前を与えられた少年は、 姉の衣装に身を包み、姉が愛した男に嫌々ながらも同行することとなる。 こうして始まった二人が辿る屍臭に満ちた旅路。その先に待つものとは…。

発表時にタイトルのインパクトでグッと掴まれた本作品。 おそらくは有名な俗説の芭蕉忍者説を採用したのだろうなとまでは想像ついたものの 内容的には正直未知数。どんな仕上がりになってるかと思いながら読んだわけですが 良い意味で裏切られたというか予想を上回った、なかなかのエンターテイメント作品でした。

物語の視点は芭蕉の弟子となった「曾良」くんを主軸に据えて展開されます。 この曾良くんが、あらすじにも書いた通りに、物語開始時点で精神的にぶっ壊れており 身につけた衣装の元の持ち主の人格を模倣しながら自らを保っているという状態のため 新しい衣装を身につけるたびにしゃべり口調が代わったりと、 正直まともな状態ではありません。 そしてもう一人の主人公でもある松尾芭蕉…曾良くんに言わせれば「せんせぇ」の方も これまた見事な変態・変人の類でして…普段から風流の世界に住んでて 視点が人と違うわ、どんな危険な状態であっても風流に囚われると使い物にならなくなるわ、 芭蕉ですし、奥の細道ですから、当然句を詠んだりするわけです。 殺伐としまくりの現実から、読み出される句の解釈っぷりがなんとも強烈で たいへんに印象的でした。

そんな二人の珍道中。 基本奥の細道の旅ですので、あっちこっち寄り道しながらの旅なのですが 屍僕たちは絶え間なく襲いかかってくる状況で侘び寂などほど遠い現実が待っています。 そんな旅の中で、すこしずつ二人は事件の真相に近づいていくわけです。

そして、道中に巡り会う人間たちはどこか狂った奴ばかり、 サブで登場するキャラクターたちもばんばん死んでいきます。 このあたりは極めて「ゾンビ物」として正しい姿勢ですね。 また、よくある結局怖いのは生きてる人間でしたという話はよくありますが、 本作では屍僕さんたちの怖さも半端ありません。 人間や犬程度は無論のこと、多種多様な動物たちも屍僕として登場します。 このあたりは小説の強みであると思いますが、本気で怖すぎです。 こんなもん生き残れる気もしません。 まあ、芭蕉さんたちもしっかり無敵なのですけれどね。

構成的には美味しいイベントシーンのより集め的な感じで 細かい旅の道程などはかなり思い切って端折られています。 状況もあっという間に二転三転し、非常にテンポ良く物語は進んでいくため ぐいぐいと読めます。全体的に重っ苦しい雰囲気な展開なのですが 半ば夢うつつに生きているような曾良くんの視点から語られる世界は 殺伐としながらもどこかのんびりとした空気も漂っていて 世界観をマイルドにしてくれているかと。

で、私も奥の細道の正確な道程は把握してなかったので調べたわけですが… これ全然終わってないですよね?(苦笑 物語としては一つ大きな区切りを迎えていますが 芭蕉の戦いは始まったばかりだからな!!と言われればその通りでして…。 売れれば続刊出るとは思いますが、是非続きが読みたいので、気になった方は 出来れば購入して読んでいただければと…。 良くも悪くもエンターテイメント性第一な感じですので、楽しむことを第一に 読む向きにオススメしたいところです。

綺麗な「お山」なお姉様がたも大量に登場しますが メインが美形な男二人ということもあって BL的な雰囲気はかなり強めなのでそっち向きの反応も見たいところ。 挿絵も全体的に耽美寄りですしね。放置遊戯でニヤニヤする芭蕉せんせぇマジ鬼畜。

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■関連情報
タイトル『奥ノ細道・オブ・ザ・デッド (スマッシュ文庫)』
作者森晶麿/天辰公瞭
出版社PHP研究所
発売日2011-08-11
区分一般
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ページ執筆者:東雲あずみ

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