悲鳴伝 (講談社ノベルス)』:西尾維新のかんそーぶん

@ 『悲鳴伝』:西尾維新(ISBN9784061828292)読了。講談社ノベルス新刊。 人類を救うため立ち上がれヒーロー、巨悪を粉砕せよ!!

  • 2012年10月25日午前7時32分31秒から23秒間、世界に「悲鳴」が響きわたった。 その悲鳴を聞いた人間の3人に1人は即座に絶命し、3人に2人は生き残った。そう人類は突如3分の2に減らされたのだ。 「大いなる悲鳴」そう呼ばれることとなった惨劇から半年あまり、世界は急速に平穏を取り戻しつつあった。 13歳の少年、空々空(そらからくう)は思春期らしい心の悩みを抱えるごく普通の野球少年である。 友人の勧めで元スクールカウンセラーの元を訪れ、その心に幾ばくかの安らぎを与えられた彼は 軽い足取りで自宅への道をたどっていた。 だが途中で出会った、剣道着姿の見知らぬ少女、剣藤犬个により、彼の平凡な日常は終わりを告げる。 これは空っぽな少年が空っぽなまま成長し、そしてほんの少し満たされた気になる…そんな英雄譚。

完全新作の長編作品。単巻完結です。 講談社ノベルスでの前作となる「少女不十分」とは違った形で重苦しさと独特の爽やかさに満ちた作品でした。 2段組500ページとややボリューム感はありますが、だいたい70ページ毎に章立てされているので 長さは特に苦にはなりませんでした。本作でいうところの「ヒーロー」はいわゆる特撮ヒーロー的な 意味合いでのヒーローです。仮面ライダーやスーパー戦隊のような。 それに習って、各章には勇ましいサブタイトルが割り振られています。 無論、中身もそれに沿った内容なわけですが…その理想と現実のギャップが皮肉でしたね。

読み進むにあたって苦に感じたのは全体に殺伐とした救いのなさそうな世界と 主人公である空々くんの虚ろさ具合でしょうかね。理解出来ない虚ろさなわけではないのがまたキツかったです。 本人は情動に乏しく、感受性も極端なほどに低いのに、周囲の視線を気にして 植え付けられた倫理観的に正しい行為を選択して行っている…ここまで極端なのは流石にそうそうないでしょうが 人間、多かれ少なかれ同じような面があるのではないかと思います。それを突きつけられている感が とかくしんどいものがありました。

本作で語られるのは空っぽな少年の成長譚。突然巨悪と戦うと標榜する組織に英雄として祭り上げられた 少年が、だがその虚ろな心故に高揚を覚えるでもなく、ただなんとなく死にたくないが故に立ち回ります。 そんな彼がどのような異常を送り、そしてどこへ行き着くのか。 その道程が彼に何を残したのか残さなかったのか…それは読んでのお楽しみということで:D

しかし、剣藤さん…西尾ヒロインの中でも一番好きかもしれません。 壊れかけた可愛いお姉さんっぷりがそりゃもうたまりませんね。 あんまり媚び媚びで可愛らしいものだから、 いやもういつ死ぬかいつ死ぬかと思いながら読んでましたよ、本当に(苦笑 本当に綺麗なボーイミーツガールだったと思います。思わせておいてください。

空々くんと剣藤さんのお話としては終わりきっていて、その方向での続編はありえないと思いますが 広げた風呂敷部分がわりとガッツリと残っており、その部分には興味を惹かれます。 またその部分を消化不良に感じる向きもあると思います。 とはいえ、そういう思い切りもまた西尾作品らしいのも事実かなと。 書きたいものは多分全部書かれてると思いますしね。

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■関連情報
タイトル『悲鳴伝 (講談社ノベルス)』
作者西尾維新
出版社講談社
発売日2012-04-26
区分一般
カテゴリ小説
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ページ執筆者:東雲あずみ

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Shinonome Azumi(yuunagi@maid.ne.jp)
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ここは東雲さんの崩壊日記改から「かんそーぶん」を切り出したページです。。 18歳以上対象の作品を取り合うことが 多々ありますので、その旨ご理解の上お読みください。
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